【代表理事挨拶】 社会みんなで支えあうために。【住むケアおおいた】発足に込めた想い
日本にいる高齢者や障がい者、生活困窮者、外国人のなかには、さまざまな事情で自分の住む住宅を確保することが困難な方が多くいらっしゃるのをご存じでしょうか。
NPO法人【住むケアおおいた】は、そういった方へ「民間賃貸住宅」や「共同居住型住宅(シェアハウスなど)」への入居をサポートし、家を探している人と家主が安心して賃貸借契約を結べるお手伝いを軸に、入居後の暮らしの支援や相談にも努めています。
そこで今日は住むケアの代表であり発起人である森崎昌敏代表理事に、発足にまつわるエピソードから具体的な活動について、今後の展望や思いを語っていただきました。
まずはじめに【住むケア大分】について教えてください。
【住むケアおおいた】は、大分県大分市を中心に高齢者や障がい者や子育て世代、外国人、生活困窮者などさまざまな問題が理由で住まいの確保に困っている方の入居の相談に応じて民間の賃貸住宅やシェアハウス、グループホームなど、その人の状態に応じた住まいへの入居をサポートするNPO法人として2015年から活動しています。住む場所を確保するための支援以外にはどんなことをされているんですか?
私たちの活動の大きな特徴として、住まい探しだけでなく「入居後のサポート」も行っている点です。例えば住まいが見つかった後も定期的に面談や見守りを行いながら、医療や福祉の支援が必要な方へは医療や福祉事業所などの各機関と連携して最適なケアができる場所の手配や紹介を行ったり、障がい者でも就労可能な事業所の紹介を行い、社会で自立して暮らしていけるためのお手伝いをしています。【住むケアおおいた】発足のきっかけを教えてください。
もともと私は不動産業界で働いていたのですが、50歳を機に独立し不動産事業所を設立しました。独立後は、それまでずっとやってきた「不動産業」としてではなく、何か社会的に役立つための不動産業の取り組みはないものか、と考えていたんです。 というのも、私は不動産業界で働いていたころ、自分でも今思うと利己的というか、自分や会社にとって有益になることばかり考え、自分自身を見失い、日々反省や後悔するが時期がありました。 でもだんだんと自分も年を重ねて人生をふと振り返った時、「本当にこのままでいいんだろうか。このままじゃ自分の人生に何も残らないのではないか」と思うようになりました。 そんなとき、これまでやってきた仕事をもっと人のためや社会のために役立てられないか、という素直に利他的な想いが膨らんでいったんです。部屋を借りたくても借りられない人と、大家さんの高齢化という現実
不動産業を営んでいると、人々の暮らしや人生において本当にさまざまな姿を見る場面に出会います。仕事をしていくなかで、日本の人口推移や社会情勢や縮図など見ていると、近い将来、高齢者や障がい者、生活に困窮する人たちが生きづらい社会がやってくるというのも感じていました。 と同時に、賃貸物件を所有している大家さんも、高齢化で賃貸物件の管理ができなくなってきたり、物件自体の老朽化で入居率が下がっているなどの課題を抱えている方いらっしゃいました。 そこで住居を「借りたいけれど借りられない人」と「貸したいけど借り手がいない人」双方の悩みや不安を解決できる、よい仕組みを作れないか?と思い【住むケア】を設立しました。具体的にはどのような方が、どういった経緯で住むケアさんへ訪れるのでしょうか。
行政機関をはじめ医療機関、居宅事業所、相談事業所などを通じて訪れる方が多いのですが高齢者や障がい者、生活困窮者、身寄りがいない、保証人がいないなど本当にさまざまな事情を抱えており、その理由も状況も千差万別です。 訪れる方の多くが、住宅が確保できないだけでなく住む場所がないという理由から仕事も見つからずにお金もないという方や、自分で何とかしようとは思ってはいるが高齢であったり身体に問題があるなどの理由で、住宅を借りることができないという方、「保証人不要」という物件でさえもやむをえない事情により借りることができないなど、一人では住む場所を確保することが困難という問題を抱えています。 これまで【住むケアおおいた】発足以来、すでに大分市内だけで1000件以上の相談があり(2019年12月時点)、相談の数は今も増加しています。 その背景には日本の人口減少や少子高齢化、核家族化、貧富の格差などの背景から、頼れる身寄りがいなかったり、親族や家族とのかかわりが希薄になり、一人で苦しい状況を抱え込んでいる方が多いという現状があります。 日本全体をみてもこういった現状を抱えている人は増加しており、【住むケアおおいた】は2018年に国土交通省の「居住支援法人活動支援事業」のも大分県指定「居住支援法人」として、国の取り組みとしても活動を行っています。 参考資料:国土交通省 国土交通省 居住支援法人活動支援事業なぜ住むところを探すだけでなく入居後の支援やサポートを行っているのでしょうか?
単に「住む場所」を探すというだけでは、社会へ再び戻って自立していくということにはつながらないと考えているからです。住むためにはお金が必要で、そのためには働き口がなくてはならない。自分が社会の中で「暮らす」「生きる」ためには、その人の状況に応じて、就労先や支援事業所、介護・福祉・医療施設などへのサポートは必要だと思うんです。 ゆえに、私たちは入居者さんの状況に応じられるよう、必要な機関や事業所としっかりと連携をとり入居後の自立支援にむけた細かいサポートを行っています。発足当初、苦労したことなどはありますか?
発足当初はもちろんですが、今も毎日いろんなことが(正直トラブルも含めて)ありますよ(笑)。私たちスタッフ(相談員)一同、本当に毎日奮闘しています。 発足当時は、まず入居希望者と大家さん、それぞれに対して【住むケア】の活動を理解してもらうということがとてもむずかしかったですね。 とくに最初は大家さんからの信頼を得ることが大変でした。 確かに大家さんからすれば高齢者、障がい者、生活困窮者など、何かしらの「問題」を抱えている方へ物件を貸すことに不安を感じるのは、当然のことかもしれません。 そんな大家さんの「貸したいけれど不安」という気持ちをカバーするために、私たちが入居者に変わって「賃貸借契約」「家賃の支払い」をはじめ、入居後にもし何かトラブルなどが発生したときは私たちが責任を持って対応し解決させていただきます、ということをしっかりとお伝えし実践してきました。この活動の主旨を充分に理解していただけた大家さんと、継続して良好なお付き合いをさせていただいてます。大家さんにとっても空室対策もでき、契約も直接交渉しなくてよいという点でメリットもある仕組みですね。
そうですね。高齢化で所有するアパートが老朽化してもなかなかリフォームや管理がしきれないという大家さんは、年々増加しています。大家さんも自分の資産で、少しでも家賃収入を得たいという人も多いです。 そういった大家さん側の現状も解消し、お役にたてたらと思っていますし、まずは「入居できる場所」を確保する、というのも私たちにとっては入居者さんと向き合うことと同様に大切なことです。なので、私たちの活動を大家さんにしっかりと理解していただいて、納得していただいてからのお付き合いをさせていただいています。 そうやって、少しずつ大家さんとの信頼関係を長い期間かけて続け、広げていくことができ、ありがたいと思っています。なかには「福祉向けの住宅提供」として積極的に私たちの事業にも参画していただける大家さんも増え、現在(2020年)は約600件ほどの入居支援を行うことができています。入居者さんとの関わりの中で気を付けられていることはありますか?
最初からみんな「自立したい!」「社会に戻りたい」と意欲的な方ばかりではありません。なかには「住むところだけでなく職もお金も身寄りもない」という人も多く、自分の人生をどう生きていけばよいのか見失っていたり、自暴自棄になっている人もいらっしゃいます。 だからこそ、私たちが大切にしているのは訪れた入居希望者さんの現状だけではなく、生い立ちや経緯、人となりなどをじっくりと時間をかけ 面談しながらコミュニケーションをはかるということに重きを置いています。 人によっては、うちのスタッフ(相談員)に対して、心を開いて話をしてくれるようになるまでかなり時間のかかる方もいますし、私たち支援する側としても「人の人生に踏み込む」という意味で、相当の覚悟と決意をもって、日々さまざまな対応・活動を行っていますから。 住まい探しだけでなく、その後のケアや支援まで行っていくためには、苦難や課題に対して目を背けることなく寄り添っていかなければなりません。 でも寄り添うためには、優しい言葉をかけるだけでは、前に進めない場面もあります。本当に自立して社会生活を送りたいという意欲と自覚をご本人にもっていただくために、全力でサポートするということを大切にしています。どんなときにこの仕事の喜びを一番感じますか?
それはやはり、入居者さんが自立して、笑顔で日常を頑張って送っている様子を見ることができたときは本当にうれしいです。 うちを訪れた当初は家も仕事もなかった方が、自立して自分で家賃を払い、仕事をして頑張っている人、介護サービスを受けながら自分の人生を楽しめるようになった高齢者、引きこもりだった方が一歩社会に溶け込み、頑張って就労にチャレンジしている姿などをみると安心しますし、何よりも私たち自身の励みにもなります。最後に今後新たにお考えの展開や展望についてと、活動に対するこれからの想いをお聞かせください。
まず今後考えているのは「自立生活支援事業」です。とくに障害というハンディをもつ方は家探し・仕事探しのハードルが高いという方が多い傾向にありますので、ケアを重視していきたいと思っています。 そのために2020年内には障がい者の方を対象にしたグループホームの設立や、一時生活支援住居(シェルター)、2021年には男女を別けた専用のグループホームも設立予定です。こういった施設を増やし、まずは私たちと一緒に社会に出るための協調性や社会性を身につけるための支援の中、モニタリングを重ねその後、独り暮らしの「自立型住宅」を提供できるような仕組みを立案中です。 また自立支援を強化するうえで、各地域で私たちの活動を一緒に行ってくれる仲間(サポーター)を募集したり、とくに高齢者を対象とした見守りサービスの強化を介護・医療機関と連携や、障がい者と健常者などが一緒に生活することが可能な「共生型」の住居も設立したいと思っています。自分たちにできることをまずはやってみる、という心を忘れずに
発足以来、活動を通して痛切に感じているのが、現代の日本において「家族・親族との絆の希薄さ」「高齢者の貧困」「心の病を抱える人」「社会から孤立している人」の多さです。 こういった方が少しでも健全で安心・安全な社会生活を再び送ることができるようにするためには、「寄り添い」と「支えあい」が必要であり、そのためには暮らしの基盤となる「住居」は不可欠です。 現代の日本社会は「衣」「食」「住」の時代から「医」「職」「住」の時代へと変換し加速し続けていると思います。 私たちは社会への自立に向けて少しずつ一歩一歩前に進みたいと思う方のために、「どうすれば願いを実現できるか」という気持ちを忘れずに、これからもより積極的に支援活動をしていきたいと思っています。
理事長 森崎 昌敏
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